※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
翌週、静流が出社すると改めて二人の関係について説明の機会が設けられた。
なぜ既婚者を装っていたのか詳細は伏せられた。紗良については『理由があって入籍が遅れているが一緒に暮らしている婚約者』という当たり障りのない肩書きがつけられた。
静流の説明を訝しむ者もいただろうが、専務が裏で糸を引いているとなれば詮索したところで握りつぶされるのがオチだ。
何より静流の課長として培っていた信頼は絶大だった。
嘘をついていたのにはのっぴきならない事情があったのだろうと誰もが納得し、静流を糾弾しようとする者はいなかった。
結果として、二課の中では大きな混乱は起きず各々粛々と仕事に戻っていった。
(大騒ぎにならなくて良かった……)
紗良は安堵していた。
しかし、表立って混乱は起きずとも釈然としない想いを抱える者もいるだろう。
紗良は終業後、木藤と吉住を喫茶店に呼び出した。
「あの……実は……。二人には本当のことをお伝えしようと思います」
静流と相談した結果、多大な迷惑をかけた木藤と吉住には真実を話すことにした。
友人の紹介で静流が入社する前からルームシェアをしていたこと。静流から妻帯者を装うために架空の妻を演じるようにお願いされたこと。入社するまで互いの職場を知らなかったこと。
婚約者どころか恋人同士になったのもつい四ヶ月前のことだということ。
包み隠さず打ち明けると二人は目を丸くした。