※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「なんか……すごい話……」
「いや、俺は色々納得しました。不倫疑惑が広まった時、課長がメチャクチャ怒ってたのはそういうことかと納得しました」
これまでの騒動の種明かしされ、吉住はゲラゲラと笑った。
「つーか……。聞けば聞くほど課長ってとんでもない変態っすね」
紗良は思わず飲んでいたカフェラテを吹き出しそうになった。
「吉住!!」
木藤は目を白黒させながら吉住の顔を睨みつけた。睨まれた当の吉住はケロリとして言った。
「え?だってそうでしょ?何も知らない俺達の前で堂々の公開プレイっすよ?心臓強すぎっすよ」
「吉住くん、それ以上は口を慎んでください」
「……やっべー。聞かれてた……」
遅れてやってきた静流は紗良達のいるボックス席にやってくるなり吉住の羽よりも軽い口を忠告で塞いだ。
さしもの静流も変態呼ばわりされては顔が引き攣っている。
「そちらの話はもう終わったんですか?」
「はい。今度高い酒を奢らされそうです」
静流は紗良と同じように月城に事情を説明しに行っていた。まだ記憶に新しい置き去り事件は紗良にとっては思い出したくもない出来事のひとつだ。
「私、先に帰るね」
「あっ!!木藤さん……!!」
木藤は静流がやってくると荷物を持って席を立った。
「二人ともお幸せに」
去り際に二人にそう言うと喫茶店から出ていってしまった。慌てて後を追おうとした紗良を吉住が止める。
「いいっすよ、三船さん。俺が行くんで」
「でも……」
「物分かりのいい女ぶるくせに、まあまあ打たれ弱いところがあの人の可愛いところなんで」
飾らない褒め言葉になぜか紗良の方が照れてしまった。
吉住は木藤を追って行った。野球で鍛え上げた俊足ならすぐに追いつくだろう。