※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
エピローグ
嬉しい知らせが訪れたのは、紗良が階段から落ちて半年後のある春の日のことだった。
「おめでたですか!?」
「うん、そうなの。妊娠四ヶ月」
弥生はそう言うと嬉しそうにお腹を撫でた。
「おめでとうございます!!」
「ありがとう」
スピカを休むようになった弥生を心配し、代わりに店頭に立つ前オーナーの弥生の父に理由を尋ねると、何やら含みがあると思ってはいたが。
まさか悪阻だったのかとようやく合点がいく。
「それでね、今日はお願いがあって紗良ちゃんと静流さんにわざわざ来てもらったの」
「お願いですか?」
スピカの定休日に紗良だけではなく静流まで呼び出されたのはどんな理由があるのだろう。
「紗良ちゃん、スピカで店長として働かない?」
「え!?」
「友成も育休を取るとは言っているし、私も復帰するつもりでいるけど産後はどういう状態になるかわからない。それならお店を任せられる人に店長をお願いしたいと思って」
弥生の隣に座っていた友成が同意するようにうんと頷いた。
「会社を辞めてもらうことになるし、お給料もそれほど沢山は払えない。だけど、将来紗良ちゃんが自分のお店を待つ時にきっと役に立つと思うの。どうかな?」
紗良は静流の顔色を伺うようにチラリと視線を送った。静流は紗良の意志を尊重するかのように穏やかに微笑んだ。
「私で良かったら……よろしくお願いします」