※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
2.架空の妻の役割
「歓迎会ですか?」
「はい。高遠課長の歓迎会です。私と吉住くんが幹事に任命されまして」
「うっす。入社四年目の吉住大貴です。よろしくお願いします」
吉住は静流に向かって軽く会釈した。吉住は紗良の一期後輩だ。大学卒業まで野球部に所属していたせいか、体育会系のようなノリがやや強い。
「特にお店のご希望がなければ我々で決めてしまってよろしいでしょうか?」
「はい、構いません」
静流は言葉少なに語ると、再びノートパソコンに向き直った。
吉住は静流の座席から離れると、紗良に小声で話しかけた。
「新しい課長ってお堅い人なんすかね?」
「まだ慣れていないだけだと思うよ」
だって家にいる時は普通に笑うし、軽い冗談も言うし……とは吉住に言えない。
静流が煌陽に入社してから早くも二週間が経った。
静流の評判は上々で、今のところ悪い話は聞かない。大手商社で部長をしていただけあって、飲み込みが早く凄まじい勢いで仕事を覚えている。もともと中小企業の課長でおさまる器ではないのだ。
エリート、そして誰もが認める男前。
二課の面々は突然現れたハイスペック上司に気安く話しかけられず、皆気後れしていた。
距離を近づけるためには、いま一歩踏み込む必要がある。歓迎会は我孫子元課長の提案だった。