※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。


 一週間の締めくくりとなる金曜日。かつては華金などと呼ばれた休前日に静流の歓迎会が開催された。
 幹事二人は会社の近くにあるスペインバルを予約した。美味しいパエリアと豊富に揃えられたワインが人気で、二課の宴席では御用達になっている。
 歓迎会は営業二課、総勢三十名ほどが集まった。
 二課では四、五人で一つのチームを組んで営業活動を行なっており、現在は六チームまである。
 ちなみに紗良と吉住は木藤がリーダーを務めるチームに所属している。

 歓迎会も折り返しの時間に差し掛かり、ワインのボトルが空になっていくと、皆いい感じに酔いが回り、随分と砕けた雰囲気になった。

「はいはい!!高遠新課長に質問!!」

 二課で一番茶目っ気のある月城真人(つきしろまひと)が先陣を切り、静流に突撃して行く。
 月城は木藤と同じリーダー職で三十代後半のベテランだ。彼が次の課長になるのではないかと噂されていたが、本人にその気はなかったようで、新任の課長を妬むことなく仕事に励んでいる。

「結婚何年目?」

 単なる世間話のひとつに過ぎないが、紗良にとっては冷や汗ものだった。いかにも新品の結婚指輪をしていれば自然とそういう話にもなる。
< 28 / 210 >

この作品をシェア

pagetop