※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「そうなんです!!昔からの常連さんもすごく多くて、お客さん皆が美味しいお紅茶で笑顔になるんです。私もあんなお店が作りたいなって……」
「紗良さんなら出来ると思いますよ」
静流は紗良の夢を茶化したりせず、激励を送ってくれた。夢の実現を信じてくれる人がひとりでもいると、今以上に頑張れるような気がする。
「今度来たときはぜひチャイも飲んでください。スパイスが効いててすごく……」
「紗良さん!!」
美味しいんですと最後まで言い切る前に静流に遮られる。強引に引き寄せられた身体のすぐ傍を自転車が猛スピードで駆け抜けていく。
「無灯火の自転車です。危なかった……」
「あ、ありがとう……ございます」
紗良を守るように抱き止められた静流の胸板の逞しさにドギマギする。
静流が優しいのは、架空の妻を演じてもらっているという負い目があるから。それを勘違いしてはいけない。
いつまでも静まらない胸の鼓動は無灯火の自転車のせいだと。紗良は必死に自分に言い聞かせていた。