※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「私が酔って帰った日、服を脱がしたでしょう?」
甘やかな重低音で囁かれたのは、静流がグデグデになって酔って帰ってきたあの日の出来事についてだった。
「……な、何のことですか!?」
「自分で脱いだにしては、ジャケットの掛け方が違うなと思ってよく考えてみたんです。もしかしたら紗良さんが脱がしてくれたんじゃないかって。眼鏡もいつもと違う場所に置かれていましたしね」
状況証拠を積み上げられた紗良はとうとう観念して白状した。
「着たままだと大事なスーツがシワになるかと思って脱がせました……」
やっぱりと言わんばかりに、ため息をつかれる。
「次からはこんなことしないでください」
「す、すみません。寝ている間にとんでもない無礼を働いてしまって……」
「違います。酔った男の服を脱がして、いつも無事で帰れるとは限らないでしょう?魅力的な女性を前にして、理性が保てる男性ばかりではありません」
紗良の頬が一気に赤くなる。
たとえ相手が紗良でも静流からオイタをされる可能性がゼロではないということ?
「か、重ね重ね本当に申し訳ない……です……」
「わかってもらえればいいんです。次から気をつけてください。私も飲み過ぎには注意しますから」
「あっ!!」
静流はどさくさに紛れて紗良からスマホを奪い返すと、ジャケットの内ポケットに流れるように華麗にしまった。