※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「さあ、話が逸れてしまいましたが頂きましょう」
 
 素知らぬ顔でアフタヌーンティーをすすめる静流に紗良はなす術なく写真の削除を諦めた。
 あとは誰にも見せないと言っていた彼の言葉を信じるしかない。
 せっかくのアフタヌーンティーだ。これ以上、無粋な真似はしたくない。
 紗良はソファに戻ると早速ローテーブルに置かれたケーキスタンドからフードを皿に取り分け口に運んだ。

「美味しい!!」

 最初のひと口に選んだピスタチオのムースは滑らかな口溶けで絶品だった。ほっぺたが落ちそうになるほど美味しくて、紗良をもれなく幸せな気持ちにしてくれる。

「フードのいくつかは下の階にあるパティスリーにも売っているようです。帰りに買って行きましょうか」
「はい!!」

 自宅でお手軽にホテルの味が楽しめるなんて最高だ。しばらくは今日の思い出に浸って楽しめそう。

「お紅茶も美味しい……」

 ひんやりと冷たいフードに温かい紅茶が良く合う。口の中で甘いフードがほろほろと溶けていく。紅茶を飲んで口の中がさっぱりリセットされたら無限に食べられそう。

「紗良さんが淹れてくれた紅茶の方が美味しいです」
「もう……ほめ過ぎですよ!!」

 静流がしれっとした顔で紗良を褒めていく。褒められて悪い気はしないが、同じ次元で比較されると恥ずかしい。
 紗良はアフタヌーンティーをたっぷり堪能し、大満足な休日を過ごした。
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