※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
週明け、アフタヌーンティーで英気を養った紗良はいつもより早めに出社した。
時間に余裕があるため、いつもより念入りにデスク周りを拭き掃除する。床は毎日清掃会社の人が掃除してくれるが、デスクは自分達で掃除をする必要がある。
二課の課員のデスクは課長以外特定の座席はない。大型のオープンデスクがいくつか並んでおり、好きなところに座って仕事をする。昔は固定のデスクだったが、三年前に就任した専務が社内改革を行い、社員同士のコミニケーションを重視したフリーデスク制が採用されることになった。
「おはようございます」
「おはよう、三船さん」
紗良は既に出社済みの課員に挨拶しながら、手早く雑巾を動かしていった。
「おはようごさいます、木藤さん」
「あ、三船さん……おはよう……」
紗良は自身が所属するチームのリーダーを見てギョッとした。
「木藤さん!?その顔色……どうしたんですか!?」
「なんか……今朝からどうにも調子が悪くて……」
木藤の顔色は絵に描いたように真っ青だった。よほど息苦しいのかはあはあと呼吸が乱れている。
「休めば良かったんじゃ……」
「だって休んだらあの課長に負けたみたいで悔しいじゃ……ない……」
話している途中だというのに木藤の身体が傾いでいく。紗良は雑巾を放り出し椅子から転がり落ちそうな木藤を支えた。
「木藤さん!!しっかりしてください!!」
何度呼びかけても木藤の応答がない。真冬だというのにこめかみには薄らと汗をかいている。これは非常事態だ。
「医務室!!」
紗良よりも早く出社していた静流が駆け寄り、木藤の身体を代わりに預かる。木藤はそのまま担架で医務室へと運ばれていった。
常駐している産業医の見立てによるとストレスからくる迷走神経反射による軽度の貧血らしい。ひとまず医務室のベッドに寝かせて様子を見ることになった。