※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
(とんでもないことになっちゃったな……)
紗良は木藤が倒れたことに幾許かの責任を感じていた。木藤のことをもっと注意深く見ておくべきだった。顧客を譲り渡したことで仕事が減ったものだと思いこんでいたが、木藤のことだから減った分だけこっそり別の仕事をしていたのかもしれない。
(木藤さんの目が覚めたらこれ以上無理しないように私も説得してみよう……)
木藤に付き添うことになった紗良は二階にあるコンビニで水とゼリー飲料などの看病に必要なものを購入した。
自分を奮い立たせたながら三階にある医務室に戻ってくると、ベッドの方から話し声が聞こえることに気がつく。産業医は健康指導の予約があると、紗良が買い出しに行く前に別室の扉の中に入って行ったはずなのに。
「すぐに目が覚めてよかったです」
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
耳を澄ませてみると声の主は静流と、紗良が不在の間に目覚めた木藤だということがわかった。
紗良は物音を立てないように忍び足で仕切りの裏に身を潜めた。
多分、あの二人は一度腹を割って話をするべきなのだ。
周囲の目のない今がまたとない好機なのだ。