※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「木藤さん、体調が悪いなら無理せず休むべきです。これを機に健康診断の受診をお奨めします。定期面談もキャンセルしているでしょう?産業医の方も困ってらっしゃいましたよ」
年に一度実施される健康診断の結果が思わしくなかった場合、定期的に産業医と面談の機会が設けられる。面談を受けさせるのは上司の義務だが、我孫子元課長が木藤に面談に行くよう指導したことはなかったと思う。
「いえ!!お気遣いは不要です。もう元気になりましたから……!!」
「木藤さん、貴女の頑張りは認めます。女性初の社長賞、ご立派です。しかし、これまで通りの無茶なやり方のままではいくら頑張っても営業成績は上がりませんよ」
図星をつかれたのか、忠告を煙に巻こうとした木藤は一転して押し黙った。
(静流さんは気がついていたんだ……)
木藤の営業成績は社長賞の受賞をピークに徐々に右肩下がりしている。
営業の仕事には時勢や景気の波もあるし、成績が下がること自体はなんら不思議なことではない。しかし、木藤は営業成績の下降を自身の怠慢と捉えかつての輝きを取り戻そうと躍起になっていた。
「じゃあどうしろって言うんですか?」
木藤は震える声で尋ねた。自身のやり方を否定され藁にも縋る思いだったのだろう。
「そうですね。それはおいおい一緒に考えましょう」
「なんですか、それ……。全然頼りにならない……!!」
期待外れの答えに木藤は憤慨した。静流はそんな木藤に静かに微笑みかけた。