※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
その後、木藤は静流の推奨通り、一週間の休暇を取った。
仕事中毒に近い木藤がこれほど長い間休むのは、紗良の知る限りでは初めてのことだった。木藤が休みの間の仕事は紗良と吉住でフォローした。木藤の担当顧客の内、いくつかは引継ぎが終わっていたので目立ったトラブルはなくスムーズに業務が進められた。
翌週、紗良はエレベーターの待ち行列の中に木藤の姿を発見した。嬉しくなって脇目も振らずに駆け寄っていく。
「木藤さん!!今日から復帰ですか?」
「うん!!休んでいる間、フォローしてくれてありがとう」
一週間の休みを経た木藤の表情は晴れかなものになっていた。ゾンビのように死にそうな表情でベッドに横たわっていたのが遠い昔のよう。
木藤は二課のフロアに到着すると、つかつかとヒールをかき鳴らしながら課長のデスクの前に立った。
「お休みをいただきましてありがとうございました。本日より復帰します」
「元気そうで何よりです。貴女にこれ以上倒れられては私も困ってしまいますからね」
「……はい。肝に銘じておきます」
木藤は一礼すると、窓際の日当たりのいい場所に陣取っていた紗良の隣に座った。
トートバッグの中から手帳やノートパソコンを取り出している木藤の横顔は耳まで真っ赤になっていた。
いつもと同じようでいてどこか異なるその様子に紗良は違和感を覚えた。しかし、その正体を見定めることができないまま、お昼休みに突入する。