※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「木藤さん、食べないんですか?」
「あ、そうだよね。せっかく身体も治ったのに……私ったら……」
木藤が注文したきつねうどんはすっかり冷め、麺がのび始めていた。ひとくち食べてはため息をつき、麺を箸で持ち上げては下ろしていく。身体の具合が悪そうというよりは、別の原因がありそうだった。
木藤の視線の先には吉住を含めた若手数人と談笑しながら昼食を取る静流の姿があった。月城が外出しているので、今日は若手と食堂で食事をとることにしたらしい。
「高遠課長ってどういう女性が好みなんだろう……」
「……え!?」
ボソリと木藤が呟いた台詞に紗良はびっくり仰天した。
聞き間違いでなければ今、木藤は静流の女性の嗜好を探ろうとしていた……?
「いや、ごめん!!嘘嘘!!今のは忘れて!!」
木藤はハッと我に返り、笑いながら慌てて自分の独り言を否定した。忘れろと言われてもそう簡単に忘れられるものでもない。
まさか……。
(木藤さんが静流さんに恋……!?)