※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「マグカップだ!!」
「そう。クリスマスモチーフの可愛いのがあったんで買っちゃった」
赤地に白抜きでクリスマスツリーと三角屋根の小さな家がプリントされたマグカップは手にぴったりと馴染んだ。
「ありがとう、ほのか。大事に使うね」
このマグカップにはどんな紅茶が合うだろう。その日の気分で茶葉を選ぶのも楽しいが、食器に似合う味を選んでいくのもまた楽しい。紗良はマグカップを眺めながら想像を膨らませていった。
「高遠さんとの生活はどうなの?」
「ん~……。はっきり言ってすっごく楽……。私の方がずぼらなのかも……」
紗良はたははと自嘲気味に笑った。
静流の家事能力は紗良の予想以上だった。言われなくてもトイレットペーパーがなくなったら取り換えてくれるし。ゴミの分別だって完璧。食事作りだって賞味期限の近い食材から優先して使ってくれる。
「ここだけの話、冷蔵庫と壁の隙間もちゃんと掃除してくれるんだよ?びっくりしちゃう!!」
「あはは!!さっすが!!高遠さんすごいね!!遼にも見習わせなくちゃ!!」
ほのかは腹を抱えて大笑いした。
「じゃあ高遠さんとこのままルームシェア続けていけそうなの?」
「ははっ。それはどうだろう……」
「どうかした?」
「ううん。何でもない」
何のストレスもなく順調だと思っていた静流とのルームシェア生活。
その終わりは紗良が思うよりも早く訪れるかもしれない。