※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。
「え?わ!!クリスマスブレンド?」
デパートやファッションビルなどに出店している紅茶量販店では、季節や行事に応じてブレンドティーが発売されている。
女性だらけの店内で男一人で紅茶を買ってきたのかと思うとクスリと笑みがこぼれた。
「折角なのでこちらのお茶を淹れてみましょうか」
紗良はそう言うとクリスマスブレンドのティーバッグをマグカップに入れ、お湯を注ぎ入れた。
紗良は茶葉から淹れるが、ティーバッグなら淹れ方が分からなくともお湯を入れるだけで作れるから手軽で簡単だ。
ほのかからもらったマグカップがまさかここで活躍するとは。
ケーキと一緒にマグカップをテーブルに運ぶと、まずはひとくち。
「シナモンとジンジャーかな?少しバニラの風味もあるかも……」
「刺激的な味ですね」
「牛乳を入れたらマイルドになるかも……」
静流はアドバイス通り冷蔵庫から牛乳を取り出すと少しだけマグカップに足し入れた。
「あ、本当だ。こちらの方が飲みやすいですね」
買ってから一日経ったクリスマスケーキは少しだけ乾燥していたけれど、パティシエの技術と素材の旨味は十分に感じられた。
(よくわかんなくなってきたな……)
紗良はフォークを咥えながら目の前にいる静流を上目遣いで眺めた。
木藤のプレゼントを断る一方で、紗良にはクリスマスブレンドを買ってくる静流。
どちらも同じ人なのに相反する行動をとる静流のことを紗良は測りかねていた。
余計な詮索はしないと約束したのに、紗良は静流がなぜ頑なに女性を避けようとするのか無性に知りたくなった。