※エリート上司が溺愛する〈架空の〉妻は私です。

「ほーら。無駄口叩いていないで仕事、仕事!!年度末も近いんだから最後まで気を抜かないの!!」

 木藤が空気を変えるようにパンパンと手を叩き、シッシと悪い虫を避けるように月城をデスクから追い払う。さしもの月城も木藤には敵わない。

「もう、本当にこれだからうちの課の男どもは……。自分達の上司なんだから少しは敬いなさいよ」

 ぶつぶつと文句を口にする木藤に悲壮感はなかった。
 静流と木藤はあれから何事もなかったかのように上司と部下として良好な関係を続けていた。

 木藤の発破のおかげか、営業二課の面々は慌ただしい三月の年度末を無事に乗り切ることが出来た。
 速報では営業二課の成績は四つある課の中でもぶっちぎりの一位。前年比三十パーセント増を見事達成した。他の課の成績が微減と微増なのに対し、異例のことだった。静流が煌陽にやってきてから半年足らずでこの成果。上司としての手腕がいかに優れているかがよくわかる。

 死ぬほど忙しかった年度末と年度始めが終わり、満開に咲き誇っていた桜の花がほとんど散ってしまった五月のこと。
 かねてより計画されていたあの人との別れが迫ろうとしていた。

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