Cherry Blossoms〜難解なカルテ〜
家に突然やって来た不審者だと思わないのだろうか。それほど、娘より仕事の方が大事なのか。考えれば考えるほど、わからなくなる。

(まあ、公安も忙しいから仕事漬けのような生活だが……)

大量に自分のデスクに置かれた書類を思い浮かべ、桜士は自分も人のことは言えないなと思う。だが、その目は迷うことなくドーナツを頬張り、時折り「おいしい」と呟く一花に向けられていた。

もしも一花が病気になったと知ったなら、迷うことなく桜士は車を飛ばし、駆け付けるだろう。仕事を休むことは簡単にはできないかもしれないが、残業はせずに帰りたい。そして、一花のそばに寄り添い、できることをしてあげたいと思っている。

(……って何を考えているんだ俺は。四月一日先生と付き合ってるわけじゃないんだぞ!好意は抱いているが)

顔に集まる熱を誤魔化すため、桜士はみんなに背を向けてコーヒーを一口飲んだ。耳には、救急科の医師や看護師の賑やかな声が入り込んでくる。
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