ベタに、切って
「ほら、行くよ」

キミエは立ちすくんでいる私を見て、焦れたように手を引いた。
その瞬間、走馬灯のようにケンスケとの思い出が脳内に過っていく。
初めて会った、取引先との飲み会でのこと。
一緒に帰った帰り道の会話。何回か一緒に行った水族館でのショー。
分かち合えなかった花火大会。喧嘩もできなかった別れ話。すべて無かったことになりそうで。

「キミエ、やだ、行きたくない」

私はその手を振り払った。
キミエは驚いたような、傷ついたような顔をした。

「なんで、良縁くっつけてもらったほうがいいじゃん」

「それはそう、なんだけど」

歯切れの悪いレスポンスにキミエは苛立ったように早口で言う。

「じゃあ入ったほうが手っ取り早くない?」

キミエは私がもう割り切れると思っていたんだろう。
私だってそうだった、そう思っていたんだ。でも違った。

「わかってる、でも、まだ捨てれないの」

捨てたくないの。思ったよりも随分、弱弱しい声だった。
私の中でケンスケは死んでいるが自分はまだその存在に縋っている。
細くて今にも千切れそうな糸がどこか飛ばされないように、必死につかんでいる。
キミエは泣きそうな顔をしていた。
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