ベタに、切って
四条大橋を渡り、そのまま真っ直ぐ左手にはみたらし団子やらやお土産屋がずらっと並んでいる。ある程度まっすぐいったところで、左折して入ったのはうどん屋である。お揚げと九条ネギがおいしい京風の出汁がきいた素朴なうどんだ。さらっとすすれば優しい味で、満たされる。

さて、目の前の八坂神社を右折しひたすら歩く。思ったよりも遠い。ただ京都は高い建物がなく、開放的である。連なる数々の店が数間隔置きにレンタル着物屋が多く、たびたび観光客と思われるレースの今時の着物をあしらった女の子がきゃいきゃいはしゃぎながら下駄を転がしている。

そして続く姿、その様子を愛おしそうに見つめる同じく浴衣を来た彼氏だった。女の子の手をさりげなく握り、耳元に顔を寄せ、女の子は照れながらも嬉しそうに笑顔である。

浴衣きてくれたんだ、俺、好き。突然耳の中に落ちてきたのは、酷い過去の男の声だった。
目の前のカップルは私たちとは違う、ただ、過去の自分がすり合わせるように投影しだした。彼女の着物は薄いピンクと白いレースなのに、どうしても紫色のアヤメ模様の浴衣に見えてしまう。男の子の方も、後ろが刈り上げているマッシュヘアーなのに、どうしてもソフトモヒカンに見えてしまうのだろう。

今は昼で、でもそれも当時の紫とオレンジが混ざり合う夕暮れでさえも透けて見えてしまう。歩いている足は止まらない。ひたすら、二人を追いかけるように前へ前へと繰り出す。
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