ベタに、切って
『カナコの長い髪が好きなんだよね、黒くて艶やかで。大和なでしこってかんじで』

『そうなの?』

『やっぱり黒髪ロングは男のロマンですよ』

『なにそれ、全然、分からないんだけど』

『だから切らないでね。切られたら、俺、悲しくて泣いてしまいそう』

『絶対うそ』
『でもまじで今の髪最強に好みだから』

二人して今日限りのキャラクターのお面を買って、綿あめを買って、混んでいる堤防にスペース見つけて花火を心待ちにしていた。彼は紳士で、当時自分の着ていた上着を敷いて、その上に座らせてくれた。私も彼の横顔が好きだった。

瞳は黒い真珠のようで、艶やかだった。でもそれが濁り切った黒だと私には感じ取ることすら出来なかった。
時系列からいってこの花火大会の時、既に、あの彼女とは一緒になっている。

夜空に口笛のような音が聞こえてきて、数秒後大輪が私たちの目に焼きつく。そして、続々と赤や、緑や最初の花より小さな花が撃ち込まれていく。どん、どんと大きな音をたてて。私たちはきっと、凄いね、とか綺麗だねとかそんな感想をお互い顔を寄せあって話しても結局聞こえなかった。

打ちあがった後の去り際は、酷く儚い花火が夏の終わりを告げる。私はいつも花火を見ると、しみじみとその花火を押し花にしたい気持ちがある。彼は対照的に告げた。

『今年は勢いがなかったな、なんというかいまいち迫力がないというか』

もうこの時点から嚙み合っていなかったのかもしれない。
このあと、その彼のもやもやさを打ち消すようにラブホテルでセックスしたときも、マンネリのようなオーソドックスのキスをし、身体に触れ、浴衣を半分脱がし、貫いた。ただ、いつもより萎むスピードが速かった。
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