約束された血の匂い

その2

約束された血の匂い/その2
麻衣




普段は無口で口下手な彼が、不思議なもんで、こういった表現では誠にテンポ良く滑舌も滑らかだ

「…同時にこの世とも思えない絶叫が鼓膜に張り付く。マトが、いっそ死んでしまいたいと願うほどの苦痛が肌に伝わる。マトと離れていても、ジンジンとな。執行する側の汗と熱気が血の臭いに混ざって、一生忘れられない悪臭が襲ってくる。いっぱしの極道もんでも、大抵はその場でゲロ吐きだ」

こんなに上手に話してるこの人、初めて見た

ここでサングラスを外し、彼は一度ため息を漏らした

「なあ…、これから俺の嫁になる大切なお前には、見せたくねえんだよ。まだ17の女の子だ。拝ませるシロもんじゃねえ。一生後悔するぞ。やめとけ、麻衣」

今度は、いつものとつとつとしたしゃべり方に変わった

さっきまではビジネストーク、今のは愛する女への気遣いってとこかしら


...



「いやよ。これからあそこの中で起こることは、私が主導したわ。しかも、直接要因は私の友達なのよ。私には、生で見届ける責任があるわ」

「麻衣!興味本位で正視出来る絵柄じゃない。無理だ、女子高生なんかが。その場でゲロ吐いて失神するのがオチなんだ。わかったな!」

「倉橋さん、あの倉庫の中で私は相馬定男の陰部をガラスの破片で切り裂いたのよ。無意識だったとはいえ、血のシャワーはすでに体験済よ。それに、私、女子高生じゃない。元女子高生よ。私のこと、心配してくれるのは嬉しいけど、立会わせてもらうわ。絶対に!」

「…」


...


彼も私も向き合ったまま、しばらく沈黙していた

「最後にもう一度だけだ。後悔しないんだな?決して…」

「はい、しません。誓うわ」

倉橋さんはまたサングラスをかけた

「よし、もう言わん。行こう…」

「はい…」

私は撲殺人の後ろを早足でついて行った

「開けろや!」

撲殺人は廃倉庫の中に向かって大声をぶつけた

”ガラガラガラ…”

戦慄のお仕置き部屋に戻ってきた…

一歩そこに足を踏み入れた瞬間、私の中の”主”は目を覚ました







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