空
母の見舞いの後、近くのスーパーに寄ってカレーの具材を買った。
カレーはチキンカレーを作ることが多かった。
チキンは骨が付いている手羽元を買い、骨に沿って包丁を入れ、塩胡椒と小麦粉とカレー粉をまぶした。
玉ねぎは半分をみじん切りに、もう半分は薄切りにした。
しょうがを千切りに、ジャガイモと人参は適当な大きさに切って硬茹でにした。
フライパンに油をひき、玉ねぎは塩胡椒をして炒めた。
少し柔らかくなってきたらカレー粉も入れ、しょうがも入れてさらに炒めた。
鍋に移し、水とワインをいれて煮た。
その次にチキンも両面に焼き色が付くまで焼き、鍋に移し30分位そのまま煮込んだ。
チキンが柔らかくなったらジャガイモと人参も入れ、カレーのルーも入れてさらに煮込んだ。
これが私のカレー。
作った時は少し多めに作って冷凍しておく。
なんだか料理を作ることに幸せを感じた。
1時間後、サラダも作りカレーと共に食べた。
本当は一人でご飯を食べるのは好きではなかった。
坂口さんにも食べてもらえる日が来るのかしら・・・と妄想し、ひとり顔を赤らめテーブルの上に置いてある携帯を眺めた。
カレーを食べ終わり、食器を流しに持って行こうと立ち上がった時、携帯がピコッと鳴った。
何か画面に出ている・・・急ぎ食器を流しに置いて携帯を見た。
坂口さんからメッセージが入っていた。
—楓さんって呼んでいいかな。坂口です。
—根岸にお父さんの納骨が終わったことを聞きました。お疲れ様でした。
—納骨が終わる頃までは連絡してはいけないと思って我慢していました。
—もし、楓さんが良ければ食事でもしませんか。
心臓が飛び出すぐらいに嬉しかった。
ドキドキしながら返事を打った。
—お心使いありがとうございます。納骨が済んでやっと落ち着きました。
—お誘い嬉しいです。私は暇ですので、ご都合の良い時にご連絡ください。
直ぐに返事が来た。
—今電話していいかな?
—はい。
間髪入れず携帯が鳴った。
「はい、楓です。」
「よかった、声が元気そう・・・」
「元気です。」
「あのさ、急だけど明日でも会わない?」
「はい、大丈夫です。」
「よかった。ところでさ、聞いていなかったんだけど楓さんはどこに住んでいるの? 」
「調布です。坂口さんは? 」
「俺は笹塚。京王線で直ぐだね。」
「そうですね。近かった。」
「近かったね・・・それで楓さん、何か食べたいものある?」
「えっ? 何かしら・・・」
「嫌いなものは?」
「特にありません。」
「そうか、じゃあ任せてくれる? 時間は19時でいいかな。」
「はい大丈夫です。」
「じゃあ店と待ち合わせ場所を決めて明日メッセージ送るね。」
「はい、待っています。」
「連絡取れて嬉しかった・・・じゃあ明日ね。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
電話を切った後も心臓がうるさかった。
・・・さりげなく楓さんと呼んでくれた・・・嬉しい・・・
私は28歳で初めてデートのお誘いを受けた。
昔、一度だけ告白をされたとこはあるけど全くタイプでは無い人なのでもちろん断った。
だからデートのお誘いは今回が初めて・・・
・・・嬉しい・・・
嬉しくて 嬉しくて にやけた。
明日何を着て行けばいいのかとクローゼットを開けてにらめっこをした。
1時間位悩んだ末に、袖がフワッとしたブラウスと少し丈の長い細かい花柄のプリーツのスカートに決めた。
靴は溝にはまらないように少しかかとの太いサンダルを選んだ。