そのレストランは大きな公園の横にあるこじんまりしたフレンチレストランだった。
公園の緑を借景にしており、少しだけ樹々がライティングされていた。

「素敵・・・」

「結構人気店なんだよ。予約が取りづらい店なのに偶然空いていた。楓さん運が良いよ。」

「そうなのですか? 嬉しい。」


坂口さんは予約の時に既にオーダーを済ませていたみたいだが、オーナーの奥様らしき女性がメニューを見せてくれた。

「今日のおすすめメニューです。苦手な食材がありましたらおっしゃってください。」

一通りメニューを見た。嫌いなものや食べられないものは無かった。

「大丈夫です。」

軽く会釈をしてメニューを奥様に返した。

「楓さん、お酒は?」

「強くないですけど一通り飲めます。」

「よかった。じゃあまずシャンパン、小さいので。その後この白ワインをグラスで。」

「かしこまりました。お待ちください。」


シャンパンが運ばれてきた。

「出会いに!」

彼はグラスを持ち、優しい目で私を見つめてそう言った。
私は既に恋に落ちていた。


・・・私を見つめる目、口調、声も・・・好き・・・


お互いのことを話した。

私は父の死のこと、母が入院していること、学校や仕事のこと、そして三崎家のことなどを話した。
苦労をしている私に彼は優しい目で見つめながらこう言った。

「楓さん、苦労は必ず後で役に立つしそのうち良いことあるからね。今は頑張って。」

何気ない言葉だけと嬉しかった。

坂口さんのことも聞いた。

学生時代から建築士を目指し勉強して、今は笹塚にある建築事務所に勤めているのだという。
ご両親はご健在で、佐原で不動産屋を営んでいる。
そして彼には5歳下の弟がいて、東京で税理士事務所に勤めていると教えてくれた。
この間坂口さんが佐原にいたのはお母さんが転んで足を骨折したと連絡があったので見舞いに行ったからで、でも行ってみたら足の小指だけの骨折だった。まったく大騒ぎして・・・とあきれ顔で笑っていた。
それでもお見舞いに行った坂口さんのやさしさが嬉しかった。
学生時代の根岸さんとの思い出話もしてくれた。小学校から高校まで殆ど同じクラスで、いつもバカばっかりやっていたと楽しそうに話している彼の笑顔がとても微笑ましかった。


・・・こういうのを愛おしいというのかしら・・・


と思った。
まだ出会ったばかりなのに、昔からの知り合いみたいに話は弾み楽しく、あっという間に時間が過ぎていった。



食事が終わり、奥様がデザートのメニューを持ってきてくれた。

「楓さん、甘いものは好き? 」

「好きです。でも結構お腹いっぱい・・・」

「別腹でしょ、デザートは。」

坂口さんは奥様に尋ねた。

「盛り合わせ出来ます? 少な目で。」

「はい、承知しました。お飲み物は何になさいますか?」

「僕はエスプレッソダブルで、楓さんは?」

「私は紅茶渋目で、ストレートでお願いします。」

「コーヒーより紅茶派? 」

「そうですね。コーヒーは飲めないことはないですけど、どちらかというと紅茶派です。」

「そうか、今度紅茶の缶がいっぱい並んでいる店に行こう。ディスプレイが素敵なんだ。まあ、俺は紅茶のことよくわからないんだけどね・・・ハハハ。」


・・・これって次のデートのお誘いかな・・・
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