空
⒉父の実家
父の実家、三崎家はこの千葉佐原にあった。
佐原は今も江戸時代の面影を残しており、小野川沿いや香取街道には昔ながらの佇まいが重要伝統的建造物として保護されている。
三崎家に行く前に少しこの風情ある小野川沿いを歩こうと早めにホテルを出ていたので、こんなに寄り道をしてしまったけど約束の時間には間に合いそうだった。
三崎家は米問屋を営む旧家の一つだった。
次男の父は若い時に兄に家業を任せ飛び出してしまった。その為実家とは疎遠になったと聞いている。
父が亡くなったのを電話で知らせたときは、お爺様に高齢で歩けないので葬儀には参列できないと冷たく言われてしまった。
さらにそのときに、親より先に行くなんてどこまで親不孝な子なんだと強い口調で言われた。
今回お伺いするのは、父の死についての報告と相談の為・・・とお伝えしてある。
本当の目的は父の遺骨を三崎家の墓に入れてもらう相談だった。
母は無理だろうと言っている。でも、ちゃんと父の死を報告したかったし、一度お爺様とお婆様に会ってみたかった。
そしてダメ元でも納骨のことをお願いしてみようと私は勇気を出してここに来ることにした。
本来ならこれは母の仕事だけど、母は父の介護で疲れ、持病もあり倒れてしまった。
だから私がやってみると母に告げた。
川沿いの道から一本道を入るとすぐに石塀が続いていた。
しばらくすると立派な門柱があり、そこには大きな三崎の表札が付いていた。
門を入ると石畳みの道が家の玄関まで続いている。結構な距離があり敷地が大きいことがおのずとわかった。
玄関は両開きの引き戸で、片側が開いていた。
私は深呼吸をしてから家の中に声をかけた。
「ごめんください。」
「はーい。」
予想に反して若い女性の声がして、すぐに出ていらした。
「あの、楓です。三崎 雄二の娘の楓です。」
「あっ、楓さんね。聞いています。私は雄一の娘の妙子です。よろしくね。」
「初めまして・・・妙子さん。私達従妹になるんですね。」
「そうね、ホントだ。まあ、上がって。」
妙子さんは同じくらいの年でさっぱりとした性格の女性のようだ。仲良くなれそうな気がした。
居間に通された。
居間は黒光りがする幅の広い板張りの部屋で、そこには重厚なテーブルと椅子が置いてあった。
椅子は片側に2客だけあり、残りの椅子は壁側に置かれていた。
「どうぞこちらに座って。今、お爺様とお婆様を呼んできますから。」
「はい。」
椅子に座わり辺りを見渡した。
ガラス窓越しにはよく手入れがされた木々と池と石灯篭がある庭が見えた。
それと、ガラス窓は大きく少しゆらぎがあり手作りガラスなのかしらと思った。
旧家だと改めて思い知らされた。ため息が出て緊張がさらに増した。