脱獄
「俺は普通の家庭を過ごしたよ。父さんはマフィアのボスで、母さんは専業主婦だった。どっちも優しい人だったよ」


案外闇が深いのかと思ったけど、父がマフィアのボスということ以外は普通の家庭で育ったようだ。

それを聞いて少し安心してしまった。

ほっと一息つく。


「で、看守さんの過去は?普通の生活だった?」


真顔でそう聞かれて、僕は正直に全ての話をしてしまった。

あのトラウマも。



よく考えれば、全く知らない人に自分の話をするのはよくないと分かる。

利用されるから。


でも聞かれたのが初めてだったのでワクワクしてしまい、つい話してしまった。








両親に全然相手にされなかったこととか、母が彼女の友達と買い物した帰りの後、通り魔に刺されて死んだこととか。



僕が中学3年生の時。

友達と下校していたら変なお兄さんに話しかけられて、二人して拉致られ僕は薬漬け。

その後は……気分が悪くなる。

言いたくない。

思い出すだけで吐きそうだ。




今でも脳に少し後遺症が残っているのか、時々頭が激しく痛くなったり幻聴が聞こえたりする。

奇跡的に幻覚は見えないが。


「頑張ったね。偉いじゃん。もっと自分を褒めていいんだよ。たくさん泣いていいからね」


アルマが僕のことを抱きしめてきたので、胸の中で喉を枯らしながらたくさん泣いた。

しかしそれとは裏腹に怖い質問をしてくる。



あれ?声がアルマっぽくない?



「それで、どんな気持ちだった?母さんが死んで嬉しかった?」
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