脱獄

敵か味方か

また階段を上り、地下一階。

左に曲がって、さっきケイが向かった廊下を突き進む。

そして右へ曲がって進み、かなり歩くと食堂がある。

食堂に入ってまず目にしたのは、たくさんの囚人どもが叫び声をあげて応援しているところだった。


「いけ!やっちまえ!」

「ガルド、そいつを殺せ!」


そんな内容のどでかい声が響き渡り、抗争が繰り広げられている。

何が起きているのだろうか?

ガルドって確かリークの兄だったっけ?



囚人たちの間を縫って奥に進むと、その争いがやがて明らかになった。

赤毛の筋肉ムキムキの大男ガルドが食堂のど真ん中で、金髪のジョニーと争っている。

こいつらはスポーツ観戦感覚で、囚人と看守の勝負を見ているのだろうか。

ありえない、こんな光景を見る日が来るなんて!


「相変わらずしつけー野郎だな!まだ殴られたいのか?」

「……ぐっ……まだだ……」


ジョニーの口から血反吐が出ていた。

もう戦える雰囲気ではない。

身体も服もボロボロで、息が可呼吸になっている。

立つのもやっとなのか、脚がふらついていた。


それでも助ける勇気が持てない。

もし助けたら自分が看守だと言っているようなもの。

とてもじゃないけど無理だ。

僕には……。


「助けようぜ、ヒロヤ。俺からの命令だ。助けて看守からほうびを貰っちゃおうよ」


頭から声がする。

また幻聴か。




命令……命令ね。


誰の命令なのかは知らない。

それよりどんなほうびが貰えるのか、とても気になってしまった。

誘惑には勝てず、そのままジョニーの前に立ちはだかる。

腹の底から声を上げた。

全体に轟き渡り、辺りがシンと静かになる。


「やめてください!これ以上争うのはダメです!!」

「お前は何者だ?囚人のくせに看守の味方になるだと!!ふざけるな!」

「僕はただ争いが嫌いなだけです。弱い人間をいじめて楽しいんですか!」


僕はケイの言葉を思い出し、大きな声で言い訳した。

本当のことを言うと脚が恐怖で震えており、ちびりそうなほど緊張している。

手が汗で湿っているほどだ。


ガルドの隣にいたアジア系の囚人が、ひそひそと話しかけていた。

それを聞いた彼はナイフを受け取り、眺めてから床にナイフを投げる。

ちょうど自分の足の近くに落ちる。

ガルドは得意げな笑みを浮かべた。


「お前、看守じゃないのだろ?」
< 33 / 42 >

この作品をシェア

pagetop