ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その26
狂気のシンパシーが投じたもの⑤


そして、いきなりといった感じで、タカハシがテンション高く口を開いた。

「わかりました‼それなら、ここまで麻衣に仕掛られてるんですから、こっちからも一発かましてやりましょう、ここで…。ヤツを試すんです。今の麻衣の我々に向かうスタンスは、相和会にとって極めて都合がいい。それを貫けるかどうか…。こっちも受けてるだけでなく、ノボルさんが麻衣と対峙するからには、ヤツの手腕をこの目で確かめさせてもらう。どうですか、それで…」

「ああ、いいな、それ。でよう、タカハシ、具体的に何をやらかすってんだ?」

隣にかけている武次郎は巨体を乗り出し、タカハシの顔を覗き込むように尋ねた。
それは、この空気を歓迎した表れでもあった。

...

「そうですね…。ここは砂垣に狙いを定めましょう。ヤツを嵌めて、麻衣がどう動くか…。もし、麻衣が今般、スクラップ・プールの頂上決戦を経て共同戦線を結んだ都県境の女勢力を駆りだせば、麻衣の示している我々との対立構図に矛盾を生じることになります。果たして本郷麻衣はどういった対処にでるか…。それで、ヤツの深意も諮れます」

「おお、それは面白い。たっぷりと麻衣のお手並みを拝見する。それを踏んでご対面だ。フフ…、楽しみが増えたわ」

「…」

ノボルのリアクションがいわゆるノリノリだったせいか、他の3人はややあっけにとられたようだった。

...


そのノボルはさらにタカハシに問うた。

「そうなると、砂垣にはどいつをぶつけるかだが…。タカハシはアテがあるんだな?」

「ええ‥、格好の連中が、ちょうど人を介してウチに売り込みかけてきてるんで…。そいつらを使ってみたら面白いかなと…」

「ふふふ‥、それ、西東京の坊ちゃん連中だな?」

「ピンポンだよ、武次郎さん」

「石堂グループか、それって…」

「椎名…、奴らならこっちとのつながりも周りから見たら、今一ファジーだし、今回の仕込みにはちょうどいいよ。石堂だって、せっかくのチャンスと受け止めて必死でかかるさ」

「そうだな…。ノボルさん、タカハシ案でいくか?」

「ああ、それで進めてくれ」

”あの時…、タカハシはオレの行動を理解してくれた上で、更なる手を立案して方向付けしてくれた。ヤツは可能な限りオレをフォローしてくれてる…。だが…、どこか手放しとはなれない…”

同床異夢…。

大打ノボルの頭の隅には、その4文字がぼんやりと姿を現わしていたのかもしれない…。



かくて”NGなきワル”大打ノボルは、本郷麻衣との最初で最後の濃密な対峙を遂げ、この自分以上にイカレた17歳の少女を”見切った”。

そして結論は、”我が見据えた本郷麻衣の弱点に狂いなし”となる…。
だが、ノボルの得たこの確信は、誠に憂鬱極まるもう一つの予期を宿していたのだ。




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