ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その27
特別挿入話/地獄を課した男のジゴク
「フン、麻衣よ…、お前は聞いてる以上だった…。年はずっと下だが、なんていい女なんだ。匂うようだぞ…」
相馬豹子こと本郷麻衣と大打ノボルの初対峙…。
それはものの十数分であった。
だが…、そのわずかな時間に凝縮された二人によるエネルギーのぶつかり合いは、何ともすさまじいものがあった…。
舞台はジャッカル・ニャン店内奥の応接兼執務室…。
そこで、麻衣とノボルは、互いに焦がれ合った末、運命の宿敵として互いを確認し合った…。
それはそれぞれのスタンスに従った、潰し合いの宣言を交わした儀式の場そのものでもあったのだ。
...
「ふふ‥、あの部屋にいたモンが言うには、ノボルさん、なんだかんだ言って嬉しくてしょうがないって顔つきだったてな」(椎名)
「確かにそれはあっただろうが…。客観的事実として、ノボルさんはオレ達の分析で導き出していた、本郷麻衣の”決定的”な弱点をその感覚として確信できたんだと思うぜ」(タカハシ)
「それなら、安心しただろうな…。本郷麻衣ヒット成就の不可欠要件が、ヤツの弱点を引き出すことにあったんだからな」(椎名)
「椎名…、ノボルさんは麻衣にの”それ”を直視するの、ある意味では辛かったんじゃないかな」(タカハシ)
「どういうことだ、タカハシ…」(椎名)
「…」(タカハシ)
...
「…奴を確実に殺せるからだよ。ヤツの弱点を突くこと…。それをNGにしないことは、東龍会とのパートナーシップを貫徹する上で避けられない。当然な。そのことで、心の芯までかつてなく熱く燃えさせられる、やっと出会えた年下の少女をだ、この世から”真正面を避けて”殺さなければならない運命を呪ったかもってな…」(タカハシ)
「三貫野…!」(椎名)
「彰ちゃんよう…、ノボルさんって人は、ずっと乾いて生きることを己に強いてここまできたんだろう?それってさ、彼がドライだクールだってそんな表面上じゃあねえったろ?」(タカハシ)
「ミチロウ…、お前、ノボルさんに何が言いたいんだ?」(椎名)
「ノボルさん…、喘息持ちなのによう、敢えて医者にも通ってないやろうが。…あの人は、ずっと、潤いを拒んで生きることを自らに課してきたんだ。だがよう…、皮肉にもそのことこそが、彼をのし上がらせるエンジンに他ならなかった…。何ともだと思うぜ…」(タカハシ)
「その渇きを潤わせたのが、麻衣だとかって言うのか、お前…!」(椎名)
「彼は悟ったはずだ。この少女こそ、心の底から求め探してた相手に違わないと…。やっと巡り合えた本郷麻衣という子のストイック度も、ノボルさんと同次元、同質のものだった…。で、二人は初対面で、お互いに極限の域までやろうと…。そんなシグナルを確認し合ったはずだ。だがノボルさんは、真向から彼女と戦えないんだ。そんな運命の巡り合いを果たした17の少女をさ、消さねばならないんだ…。手段を択ばずに…」(タカハシ)
「…」(椎名)
戦後15年もしないうちに生を受けた九州男児二人の、同志を巡るコアな会話はここで打ちきられる…。
…
本郷麻衣と相和会幹部・倉橋祐輔の極道業界に向けた伊豆での婚約披露セレモニー翌日…、相和会のシマでおひざ元にあったジャッカル・ニャンから大打一派は”消えた”。
加えて…、すでに店の敷地と建物の所有者も移転登記を済ませており、ニャン以外で大打傘下と目される男たちは一斉に撤収していたのだ。
その直後に即、東京埼玉県境の商店街は皆、”これは、この地元で広域やくざの侵入を戦後ずっと拒んでくれた相和会が、組幹部と麻衣ちゃんの婚約パーティーで関東の東龍会をけん制したおかげだ!麻衣ちゃんはこの界隈を救ったプリンセスだ!”という風潮に染まる…。
だが、この背景には、意図的に麻衣のブレーンであった相和会の剣崎満也と岩本真樹子の妙案によって、三田村峰子が東龍会サイドから伊豆での一報が伝わる前に都県境一帯へいち早くリークさせたという経緯があった。
むろん、深海の超能力者と呼ばれ、その情報操作では剣崎も目を丸くさせるほどの三田村峰子による天才的な”加工”が施されての上ということではあった…。
この結果、都県先一帯は青天の霹靂とも言える安寧があっけなくも降ってきたのだが…。
南玉連合を軸とする麻衣と共同戦線を張った面々は、一応に拍子抜けを喰らったた。
しかるに、大打グループと、ヤクザ・カタギ間のハードル超えを成したそのパートナーシップ関係にある関東の直系有力組織、東龍会が相和会の縄張りから引いたことになるのか…。
この事態を、その見解でもって、今の警戒態勢を緩めていいものかどうか…。
その判断は、当然、相和会と麻衣の一方の当事者も見極めには深慮を要していたのであった…。
特別挿入話/地獄を課した男のジゴク
「フン、麻衣よ…、お前は聞いてる以上だった…。年はずっと下だが、なんていい女なんだ。匂うようだぞ…」
相馬豹子こと本郷麻衣と大打ノボルの初対峙…。
それはものの十数分であった。
だが…、そのわずかな時間に凝縮された二人によるエネルギーのぶつかり合いは、何ともすさまじいものがあった…。
舞台はジャッカル・ニャン店内奥の応接兼執務室…。
そこで、麻衣とノボルは、互いに焦がれ合った末、運命の宿敵として互いを確認し合った…。
それはそれぞれのスタンスに従った、潰し合いの宣言を交わした儀式の場そのものでもあったのだ。
...
「ふふ‥、あの部屋にいたモンが言うには、ノボルさん、なんだかんだ言って嬉しくてしょうがないって顔つきだったてな」(椎名)
「確かにそれはあっただろうが…。客観的事実として、ノボルさんはオレ達の分析で導き出していた、本郷麻衣の”決定的”な弱点をその感覚として確信できたんだと思うぜ」(タカハシ)
「それなら、安心しただろうな…。本郷麻衣ヒット成就の不可欠要件が、ヤツの弱点を引き出すことにあったんだからな」(椎名)
「椎名…、ノボルさんは麻衣にの”それ”を直視するの、ある意味では辛かったんじゃないかな」(タカハシ)
「どういうことだ、タカハシ…」(椎名)
「…」(タカハシ)
...
「…奴を確実に殺せるからだよ。ヤツの弱点を突くこと…。それをNGにしないことは、東龍会とのパートナーシップを貫徹する上で避けられない。当然な。そのことで、心の芯までかつてなく熱く燃えさせられる、やっと出会えた年下の少女をだ、この世から”真正面を避けて”殺さなければならない運命を呪ったかもってな…」(タカハシ)
「三貫野…!」(椎名)
「彰ちゃんよう…、ノボルさんって人は、ずっと乾いて生きることを己に強いてここまできたんだろう?それってさ、彼がドライだクールだってそんな表面上じゃあねえったろ?」(タカハシ)
「ミチロウ…、お前、ノボルさんに何が言いたいんだ?」(椎名)
「ノボルさん…、喘息持ちなのによう、敢えて医者にも通ってないやろうが。…あの人は、ずっと、潤いを拒んで生きることを自らに課してきたんだ。だがよう…、皮肉にもそのことこそが、彼をのし上がらせるエンジンに他ならなかった…。何ともだと思うぜ…」(タカハシ)
「その渇きを潤わせたのが、麻衣だとかって言うのか、お前…!」(椎名)
「彼は悟ったはずだ。この少女こそ、心の底から求め探してた相手に違わないと…。やっと巡り合えた本郷麻衣という子のストイック度も、ノボルさんと同次元、同質のものだった…。で、二人は初対面で、お互いに極限の域までやろうと…。そんなシグナルを確認し合ったはずだ。だがノボルさんは、真向から彼女と戦えないんだ。そんな運命の巡り合いを果たした17の少女をさ、消さねばならないんだ…。手段を択ばずに…」(タカハシ)
「…」(椎名)
戦後15年もしないうちに生を受けた九州男児二人の、同志を巡るコアな会話はここで打ちきられる…。
…
本郷麻衣と相和会幹部・倉橋祐輔の極道業界に向けた伊豆での婚約披露セレモニー翌日…、相和会のシマでおひざ元にあったジャッカル・ニャンから大打一派は”消えた”。
加えて…、すでに店の敷地と建物の所有者も移転登記を済ませており、ニャン以外で大打傘下と目される男たちは一斉に撤収していたのだ。
その直後に即、東京埼玉県境の商店街は皆、”これは、この地元で広域やくざの侵入を戦後ずっと拒んでくれた相和会が、組幹部と麻衣ちゃんの婚約パーティーで関東の東龍会をけん制したおかげだ!麻衣ちゃんはこの界隈を救ったプリンセスだ!”という風潮に染まる…。
だが、この背景には、意図的に麻衣のブレーンであった相和会の剣崎満也と岩本真樹子の妙案によって、三田村峰子が東龍会サイドから伊豆での一報が伝わる前に都県境一帯へいち早くリークさせたという経緯があった。
むろん、深海の超能力者と呼ばれ、その情報操作では剣崎も目を丸くさせるほどの三田村峰子による天才的な”加工”が施されての上ということではあった…。
この結果、都県先一帯は青天の霹靂とも言える安寧があっけなくも降ってきたのだが…。
南玉連合を軸とする麻衣と共同戦線を張った面々は、一応に拍子抜けを喰らったた。
しかるに、大打グループと、ヤクザ・カタギ間のハードル超えを成したそのパートナーシップ関係にある関東の直系有力組織、東龍会が相和会の縄張りから引いたことになるのか…。
この事態を、その見解でもって、今の警戒態勢を緩めていいものかどうか…。
その判断は、当然、相和会と麻衣の一方の当事者も見極めには深慮を要していたのであった…。