ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その11
砂垣



もう5時か…

そろそろ暗くなってくるな

「砂さん、奴らまだ現れないな。ひょっとして、暗くなるのを待ってるとかかな…」

大場まで、じれてきたか

みんな、敵を迎えるのも気が気じゃないようだしな

フン、奴らはもうここに向かってるさ

まもなくだ…


...



「おい、薪をどんどん放れ。火は絶やすな!」

蘇我は明かりの確保に熱心だわ

そして、大事なお嬢さんは、薪の火から少し離れた廃車の陰で、タイヤに拘束してある

その隣では、バグジーが待機だ

「なあ、砂さん…、せっかく連れ去ってきたんだ。乱暴まではしなくとも、多少は痛い目に遭ってもらった方がいいのと違うか?根性焼とかよう、目に見えるもんで。無傷でお返しじゃあ、女どもに舐められるぜ」

蘇我は杓子定規だな…

「蘇我、相手の立場でよく考えてみろよ。あっちからすれば、すでに、南玉の本田多美代を襲われてるんだぞ。向こうは大同団結を成し遂げて、数じゃこっちを凌駕してるし、今頃は一気に攻めてやれって気勢挙げてるだろうよ。今日、いきなり一戦交えるまでには及ばないだろうが…」

「そうかねえ…。今回は急だし、少なくとも、すぐには頭数は揃わねえさ。それより、この前の二人連れみたいに、人質をバグジーに惨たらしく痛めつけさせて、恐怖心を与えた方が有効だと思うがな」

「そうっすよ、蘇我さんの言うとおりだと思いますよ」

蘇我の取り巻きの数人も皆頷いてるわ

全く…

そんなことで、あのモーレツ女どもが、たじろぐかってんだ

ここの女の猛り方が尋常じゃねえって、まだわかってないわ、こいつら


...



「とにかく、新村に手荒な真似はするな。今日は、あくまで儀式だ。決着をつける意思を確認しあう場にするんだ」

「そんなもん必要かなあ、そもそも…。今日、向こうの代表に人質返して欲しけりゃ、バグジー倒してからにしろって、それで今日片着けちゃえば手っ取り早いだろ。何も時間を与えることねえよ…」

「あのな…、それが出来れば苦労はねえよ。向こうは麻衣からの情報を得てて、バグジー対策に励んでるさ、すでにな。準備は怠ってないんだ、あちらさんは。それこそ総力を挙げて、戦略を練ってる。紅組と一緒だよ」

こいつらは、あれだけ苦渋を強いられた紅組の戦い方を、南玉の奴らが受け継いでるって認識ないのかよ

「今日、ここでタイマン決着を突き付けたって、飲むもんか。それならって、強引にこの場で力責めしたら、それこそ南玉と組んだ全勢力をまとめて相手にするんだ。そうなりゃ、いくらバグジー抱えていたって、潰される。百歩譲っても、今の戦いには、相和会内部の人間になった麻衣が目を光らせてんだ。加えて、バグジーにも連中との”戦い方”を説き伏せてる。言ってみりゃ、がんじがらめなんだ、俺たちはな…」

それでも、蘇我達はいまいち、現実が分かってないようだ…

ふう…、単細胞と話してると頭が痛くなってくるよ




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