ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その3
ケイコ



K駅近くのスポーツジムに着いたのは、夕方5時過ぎだった

バグジーとの決戦を明日に控えた祥子は、墨東会メンバーの男性と激しいスパーリングの真っ最中で、すでに両者とも汗びっしょりだよ…

「おけい!」

「ああ…、多美…」

私に気付いた多美が声をかけてくれたので、多美の隣まで歩いて行った

近くには馬美やさえ、静美らがいて、さらっと会釈をした後、あたりを見回すと…

わあ…、かなりの人数が集まってる

30人以上いるかな…

ここは普段はエアロビなんかで使っている広めのホールらしいんだけど、今日は床にマットを敷いて、私たちが貸し切っていてね

さすが、室内は静かな中にも凄い熱気だよ


...



スパーリング中の二人の付近では、矢吹先輩がピタリとついて回り、時折両者の間に割って入っては、祥子に身振り手振りを交えて指示とかを出していた

あっ‥、私の反対側に久美を発見したぞ…

岩本さんと迫田さんの間に挟まって、マット上にじっと視線を集中させているわ


...



そのあと、15分ほどでスパーリングは終了してね

それまで祥子と墨東会メンバー白石さんの息づかい、それに矢吹さんのかけ声のみで占拠されていた室内が、途端にざわめきだした

「祥子、白石さん…、お疲れ様。ああ、二人は腰を下ろして楽にしてて…。久美、タオルお願い」

「はい…!」

ハハハ…

久美は、ここでもまめに働いてる(笑)

で、今日の進行役は岩本真樹子さんのようだ…


...



「じゃあ、まず祥子のコーチ役である矢吹さんから、総評をもらうか。矢吹さん、お願い…」

「ええ‥。今日のスパーリングでは、明日の対決を想定して、祥子の相手と同等の体躯の男性に対し、今まで積んできたトレーニングの成果が、果たしてどの程度通用するかを計るのが主眼でした…」

多くの人は、この矢吹先輩を口下手のようにイメージしてるけど、この人の伝達の術がハンパないのは私が良く知っている…

「…その結果、私の目からは、想定している攻撃面での効果は、予想以上と判断されました。半面、守勢での耐え凌ぐ局面では、やはり、自分より大きいしかも男性となると、思ったより体力の消耗度が激しいと見受けられました…」

この間、祥子はマットに胡坐をかいて、スポーツドリンクを口に頬張っていた

ハハハ…

こういうところは好漢の大女を地で行ってていいわ

周りからは、好意的な苦笑が漏れてるし…

おそらくは墨東会のお兄さんたちも、”頼もしいな~”って感じだと思うよ





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