ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その6
ケイコ



「おけい…」

「祥子…、スパーリング凄かったよ。お疲れさま」

「いや、そっちこそいつも忙しいところ、すまん。…それで、”例の件”なんだけどさ…」

「うん、正直、迷ってるよ。私に務まるかなって…。当然ながら、経験もないしさ」

実はおとといになって、私に明日の審判をって要請が来てね…

「こっちも、あまり無理強いはできないんだけどさ…。私としてはぜひ、お前にって気持ちではあるんだ。まあ、今回は砂垣さんもさ、何か企みとかってことはないと思うし。あくまで、おけいのピュアでフェアな人間性を見込んでのことだろう」

何と私に白羽の矢を立てたのは、砂垣さんだったんだよね


...



「うーん…」

私は決心がつかなかった

「多美はどう思う?」

「私はもちろん、おけいにやって欲しいよ。でもなあ、おけいにはこれ以上、負担をかけたくないって気持ちもね…」

「そうなんだよな…。私達とは比べ物になんないほど、大変な毎日を生きてるんだもんな。この前だって、道場で貧血起こしちゃったの見てる訳だし…」

二人とも、腕組みして下向いちゃってるよ…

「あのさ…、二人が私の”今の立場”を気遣ってくれるのは嬉しいけど、私が躊躇してるのはそう言うことでじゃないんだ。果たして自分に、明日の大事な戦いをフェアなジャッジできるのかってことなんだよ。少なくとも、心情的には二人に勝って欲しいって気持ちだから…。そうなると責任があるしさ、やるからにはね」

「そこのところなら、大丈夫さ。今回のルールは極めてシンプルだし、レフェリングというより立会人だよ。第一、両サイドからは一人ずつサブのジャッジが付くし、きわどい判断って時は、3人で協議すればいいんだよ。でも、それだからこそ、フェアでピュアなお前にしかできなだろうなってね…」

祥子はわかりやすく説明してくれた


...


祥子の言葉で私は決心した

「わかった…。やってみるよ。大任だけど…」

「そうか…。すまないなあ…、おけい。一つ頼むわ。これで多美も私も思いっきり行けるしな」

「おけい、私がもしへばるようなことがあっても、遠慮はいらない。私情抜きで、中立を貫いてくれ」

多美は私の肩をポンとたたいた

「了解だよ。二人とも、明日は全力で頑張ってね」

よし、やってやる!

見届けてやるって…

私は決意したわ


...



その直後だった…

「おけい…、ちょっといいかな」

その声の主を振り向くと、久美だった

そして、その隣の人…

「たぶん承知だと思うけど、こちら‥、迫田リエさんだよ」

私の1Mにも満たない眼前には、他ならぬ”あの人”が立っていた…





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