ツナミの女/80S青春群像『ヒートフルーツ』豪女外伝/津波祥子バージョン編【完結】
その13
ケイコ



「真樹子さん、おけいはあそこだよ、あそこ‥」

なんか、隣にいる祥子と多美が私を指さしてる

まさか…、ここであいさつとかって言わないよね…

私、そういうの極端に苦手なんだけど…

「…おお、横田!南玉の元リーダーがそんな入り口にすっ立ってて、あんた何やってんのよ(苦笑)。さあ、こっち来てひと演説でしょーが」

勘弁してくれー


...



「おけいー!スピーチ…!」

「スピーチ!」

みんな一斉に私に振り返り、拍手しながらスピーチとかって言ってるよ…

やばい状況だ

帰りたくなってきた…


...



「おけい、さあ、奥へどうぞ…」

アカネとかルミとかが、私の腕を引っ張ってるよ…

「いやあ、いいって…、私はさ。戦う訳じゃないんだから…」

私は久美の腕にしがみついて、まるで登校拒否の子供だわ(苦笑)

”久美、頼むよ…”

私はアイビームで、久美に助け船をチャーターだ

”あいよ!おけい…、任せて”

おお…、頼もしいリターンだぞ

久美はその場でジャンプしながら、奥にいる祥子らに何やら合図を送ってくれてるみたいだ…


...



「…真樹子さん、ここで挨拶なんかさせたら、あのおけいのことだから、適当にはできないよ。ここは、”この後”の集中力を削いじゃいけないでしょ、やっぱり」

祥子、アンタはエライ!

もっとも、私の顔を見ながら笑ってるぞ…

「そうですよ。アイツ、異常に照れ屋だから、無理やりスピーチみたいなのはさせない方がいいですよ」

多美、お前もエライ!

だがアイツも固まってる私を見て、吹き出しそうな顔してるし…


...



「…そうか?なら、みんな!ここは、横田にリスペクトを込めた拍手で送りだそう!」

”おー!おけい…、頑張って!”

”パチ、パチ、パチ…”

ああ…、助かったわ

ふう…

「よかったね、おけい」

そう言う久美も、今にも吹き出しそうな顔してるんだけど…


...



それから間もなくして、祥子の号令のもと、全員出陣となった

「じゃあ、おけい、現地で会おう…」

「うん」

私は祥子と多美をみんなと一緒に見送ってから、久美のバイクに向かった

すると、私の背中に声優のようなかわいい美声が届いたよ

「横田さん!」

「あー、丈子さんだ!」

すでにバイクのエンジンをかけてスタンバっていた久美は、”その声”の方を向いてそう呼んだ

「波沢さん!」

すぐさま私も振り返ると、咄嗟にそう叫んでいた…





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