大江戸ガーディアンズ
『……と云っても、奴の兄の次男を養子に取ったらしいがな』
島村 勘解由には、妻女との間に嫡男どころか一人も子がいなかった。
『されど……その者はまだ同心の見習いではござらぬか』
『なんだ、知っておるのか』
まさか、我が妻の離縁を待って「後釜」を狙っている「因縁」のある男だとは、父の前では口が裂けても云えぬが。
『いや……小者から名を聞いて見知っているくらいでござる』
ゆえに、兵馬はかように申すにとどめた。
『ふうん、そうか。
だけどよ、囮に使うのはなにも同心だけじゃねえぜ』
兵馬は目を見開いた。
——確か、赦帳撰要方に残る記録では、さようなことは記されてなかったはず……
『ふん、あの捕物では同心の独壇場だったかもしれねぇけどよ。
南北合わせて捕縛にかかる此度の捕物は、もっと大掛かりにやるってんだ』
「淡路屋」の件は、多聞がまだ見習い与力であった頃の苦い思い出であった。
未だに「北町」に大手柄を許したあの時分のことを思い出すと、自ずと悔しさが込み上がってくる。
『兵馬、おめぇ、吉原の廓に……
だれか町家の者を囮として仕込むことはできねぇか』