大江戸ガーディアンズ

「旦那さま、せっかく御酒をお持ちしたゆえ、お召しくださりませ」

美鶴がすすっと膝を進めて、兄と妹の間に入った。

「おせい、なにをしておる。(はよ)う客人に……」

御新造(ごしんぞ)さん、すまんこってす」

女中頭のおせい(・・・)が、あわてて盆を引き寄せて酒器の支度をする。


「松波様」

杉山が声を上げた。

「かたじけのうござる。
夜半であろうと、いつまた呼び出しされるやもしれぬゆえ、そろそろ(いとま)を……」

とりあえず今宵は帰宅を許されたが、今度出仕した折にはおそらく当分戻れぬと思われる。

ならば、なるべく早く妻子のいる家に帰りたいのであろう。


「まっ、松波様っ」

与太もここぞとばかりに声を出した。

「おいらも、明日(はよ)うから鳶の仕事が立て込んじまってて……」

それに、吉原で「囮」になってくれる町家の(もん)を一刻も早く見つけねばならない。


相分(あいわ)かった」

兵馬はさように応じると、天女が下賤なこの世の者に放つかのごとき妹の目から、ついっと我が目を逸らした。

「そいじゃあ、二人とも……
先刻(さっき)云ったこと、よろしゅう頼まぁな」

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