大江戸ガーディアンズ
与太は声を潜めて囁いた。
「『南北』が手を取り合うことになるってぇ話だ」
「へぇ……よっぽど切羽詰まってんだな。
まぁ、松葉屋、扇屋と来て今度ぁ丁子屋だかんな」
伊作はニヤッと笑った。
「そんで、あっしらは何をすりゃあいいんでぇ」
「親分は昔『淡路屋』で遭ったことを覚えてっかい」
「淡路屋か……あっ、そういや後妻の内儀が押し込みの手引きをしたってぇことがあったっけ。
かれこれ……今から二十年ほど前の話だ」
伊作は遠い目をして下っ引きだったあの時分を振り返った。
「確か……『北町』の同心……島村の旦那が『囮』になってぇ大手柄を立てなすったんだったな」
そのために、隠密廻りの島村が歌舞伎役者風の遊び人の姿に身を変装して淡路屋の後妻に近づき、「懇ろ」になったことを思い出した。
「ま、まさか……今度ぁ、あっしらが『囮』になれってか」
「声を抑えてくんな」
すかさず、与太が伊作を制した。
これではどちらが「親分」か知れやしない。
「それこそ『まさか』だ。
おいらたちが奉行所の『手先』だっ云うこった、町家の者にゃ百も承知の二百も合点だってのよ」
伊作は「そりゃそうだ」とばかりに肯いた。
「だからよ、『髪切り』をとっ捕まえるための囮になってくれる町家の者を、おいらたちが探さねえといけねぇのさ」