大江戸ガーディアンズ

与太は声を潜めて(ささや)いた。

「『南北』が手を取り合うことになるってぇ話だ」

「へぇ……よっぽど切羽詰まってんだな。
まぁ、松葉屋、扇屋と来て今度(こんだ)ぁ丁子屋だかんな」

伊作はニヤッと笑った。

「そんで、あっしらは何をすりゃあいいんでぇ」


「親分は昔『淡路屋』で()ったことを覚えてっかい」

「淡路屋か……あっ、そういや後妻(のちぞえ)内儀(おかみ)が押し込みの手引きをしたってぇことがあったっけ。
かれこれ……今から二十年ほど前の話だ」

伊作は遠い目をして下っ引きだったあの時分を振り返った。

「確か……『北町』の同心……島村の旦那が『(おとり)』になってぇ大手柄を立てなすったんだったな」

そのために、隠密廻りの島村が歌舞伎役者風の遊び人の姿に身を変装(やつ)して淡路屋の後妻に近づき、「(ねんご)ろ」になったことを思い出した。

「ま、まさか……今度ぁ、あっしらが『囮』になれってか」

「声を抑えてくんな」

すかさず、与太が伊作を制した。
これではどちらが「親分」か知れやしない。

「それこそ『まさか』だ。
おいらたちが奉行所(おかみ)の『手先』だっ()うこった、町家の(もん)にゃ百も承知の二百も合点だってのよ」

伊作は「そりゃそうだ」とばかりに肯いた。


「だからよ、『髪切り』をとっ捕まえるための囮になってくれる町家の(もん)を、おいらたちが探さねえといけねぇのさ」

< 113 / 316 >

この作品をシェア

pagetop