大江戸ガーディアンズ
伊作との話が終わり、水茶屋を出ようとした処で声が掛かった。
「……ちょいと、与太」
盆を胸に抱えたおるいが入り口に立っていた。
なんだ、と目を遣ると、何故だか意を決したかのごとき眼差しが返ってきた。
「町家の者の……『囮』が要るんだろ」
押し殺した声で、おるいは尋ねた。
「はぁっ、おめぇっ……」
与太は思わず声を張り上げかけたが、すぐにその声を抑え込む。
「故郷に帰ぇらずこの店でずっと働きてぇんだったら、御用向きのことなんざに無闇矢鱈と聞き耳立ててんじゃねえ云っただろうが」
その代わり、おるいを鋭い目で睨みつける。
奉行所の御用向きに使われる嘉木屋では、たとえ店の内であろうとも茶汲み娘が見聞きした話をするのは御法度だった。
「もちろん、あたいは他所でしゃべったりなんざしねえよ」
おるいは与太の目に怯むことなく云い返した。
「じゃあ、なんだってんだよ。早う帰れねぇと昼からの仕事が始まっちまぁらぁ」
今日も朝から鳶の作業をしていた与太は、短い昼餉の間を縫って来ていた。