大江戸ガーディアンズ
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昼餉(ひるげ)を終えて鳶の持ち場に戻った与太は独り()つ。

「……一体(いってぇ)、おるいの奴ぁ、なに考えてやがんでぇ」

もちろん、おるいからの申し出は即座に断った。

水茶屋の中には「客を引いて春を(ひさ)ぐ」(ところ)もあるが、嘉木屋は決してさような店ではない。

「堅気の娘」に吉原の(くるわ)に入っての(おとり)なぞ、させられるわけがない。

与太はかように思い巡らせつつも、その身は縦横ぴっちり組まれた杉の細い丸太の足場をひょいひょいと渡っていき、あっという間に一番(いっち)高い処まで上がっていた。


伝馬町にある寺の本堂が、此度(こたび)檀家衆の寄進によって修繕されるにあたり、地元である与太たちの組が普請(ふしん)のための足場を任されていた。

江戸府内の者であろうと、ひとたび「伝馬町」と聞けばたちまち「牢屋敷」と、御公儀(幕府)が捕縛した(とが)人を押し込んで処刑する場だと思い浮かべて顔を(しか)める。

確かに伝馬町には牢屋敷はあれど、その周囲(ぐるり)は咎人が逃げ出さないようにがっちりと煉塀で囲まれている上に、どっぷりと黒く澱んだ堀の水が張り巡らされている。

さらに、粗末な橋を渡した先にある表門が裏鬼門(南西)に、そして裏口が鬼門(北東)に設けられていて、中に入っていくにはまさに「不浄門」を通らねばならない。

とっ捕まえた咎人を差し出す与太たち奉行所(おかみ)の「手先」ならいざ知らず、日頃より縁起を担ぐだけ担いでいる町家の者が寄り付くはずがない。

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