大江戸ガーディアンズ
多平から久作の手を経て、杉の丸太がずいっと上がってくる。
与太は手にしていた細縄を口に咥えると、杉板一枚渡しただけの定まらぬ足場であるにもかかわらず、その身をしならせて丸太をえいっと引き上げた。
そして、片足を器用に使いながら丸太を目指す処にしっかり据えると、咥えていた縄で手早く結える。
まさしく、この先御堂の修繕をせねばならぬ大工たちにとっての「命綱」だ。
万が一にも解けてはならぬ。
与太は仕上げとばかりに、結えた縄をぎりぎりと締め上げた。
そのとき、与太の頬にぽつっと雨粒が落ちてきた。
空を見上げると、いつの間にか薄鼠の雲が辺り一面を覆っている。
見ている間に、ぽつぽつぽつ…と雨粒が降ってきた。
普請場で雨は御法度だ。
今まで濡れて滑りやすくなった足場で、どれだけの鳶の男たちが命に関わる危ない目に遭ってきたことか——
「おうい、与太ぁっ久作ぅっ、今日はここまでだぁっ」
下から多平の声が上がってきた。
「おう」
与太はかように応じると、縦横びっちり組まれた足場をみるみる間に下りていく。
途中でまだまだおっかなびっくりとばかりに腰の引けた久作とすれ違いざま、
「慌てんじゃねえ。おめぇはゆっくり下りてきな」
さように声をかけたかと思えば、久作が「へぇ」と応じたときには、もうその足は地面に付いていた。