大江戸ガーディアンズ
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与太は店の入り口にいた茶汲み娘のおるい(・・・)に、勘定と心付を渡した。

「毎度あり」

おるいは礼を云うと、心付を帯の隙間にすっと差し込んだ。
勘定は店の奥にある内所に持っていかねばならぬが、心付は茶汲み娘の「稼ぎ」だ。


世田谷村の百姓家で生まれたおるいは、半年ほど前に弟妹の多い実家から口減らしのため、代々木村よりこちら側の朱引内に出てきたと云う。

母親の昔馴染みが奉行所のお役人の御家(おいえ)で女中頭をやっていて、その伝手(つて)でこの水茶屋・嘉木(かぎ)屋に奉公するようになった。

大通りから奥まっていて目立たぬ嘉木屋は、店主の老夫婦が店を開く前に亭主がさる御武家の中間(ちゅうげん)をし、女房がその御家の女中をしていた縁で、今では密かに奉行所の「御用向き」として使われている。


水茶屋で客に茶の給仕をする「茶汲み娘」は、玉の輿に乗りたい若い娘が憧れる人気の職だ。

その昔、お忍びで店にやってきた御公儀のお偉方に見初められて嫁いでいったと云う、茶汲み娘の「笠森お仙」に(あやか)りたいのだ。

見目の良い娘が、我こそはと方々から集まってくる。

村にいた頃から器量良しと云われていたおるいも、郷里(くに)を出て朱引内に来たからには「茶汲み娘」になりたかった。

されども、水茶屋の中には御公儀の御触れに背いて「客を引いて春を(ひさ)ぐ」店もある。

ゆえに怖れもあったが、この店なら安心だ。


「……ねぇ、与太。

あんた、また吉原に行くのかい」

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