大江戸ガーディアンズ
「起っきゃがれっ、人聞きの悪りぃことぬかすんじゃねえよ」
与太はぎろり、とおるいを睨んだ。
「おいらは浮ついた心持ちで行くんじゃねえ。
奉行所の『御用』で行くんだかんな」
おるいはまだ半年とは云え、奉行所の息が掛かったこの嘉木屋で奉公している。
ゆえに、与太が「火消しの鳶」であるだけでなく「下っ引き」でもあることなど、百も承知二百も合点だ。
されども——
おるいは町娘によく見られる結綿の髪に結われた頭をこてんと傾いで、
「あたいにゃ、あんたが御用向きだけで吉原へ行くとは、とても思えねぇんだけどさ」
と、与太を見返す。
「……るっせぇや」
与太は暖簾をパッと払って、水茶屋の外へ出た。
それから、振り向きもせずにおるいに背中を向けたまま、
「おめぇ、郷里に帰ぇらずこの店でずっと働きてぇんだったらぁよ。
御用向きのことなんざに無闇矢鱈と聞き耳立ててんじゃねえぞ」
さように告げると、大通りを目指してあっという間に走り去った。