大江戸ガーディアンズ
おつたは吉原の大見世同士の繋がりによって、これまで「髪切り」が見世の中でも二階にいる遊女の髪ばかりを狙ってきたのを知っていた。
よって、囮となるおすては二階で「遊女」として「商い」をすることになる。
「よかったね、おすて。
おまえの初見世は一階の廻し部屋じゃのうて、二階のお座敷になるよ」
とりあえず当面は、一階の廻し部屋で一晩に何人もの客の相手をする「女郎」のように表の通りに面した張見世で格子状の籬の内側に座って客を引くことはなくなった。
おすてみたいな身の上では、誠にありがたいことであった。
ゆえに、お内儀に礼を云うべく声を出そうとしたが……
「あ……」
その声は細く掠れて最後まで出なかった。
おすては思わずうつむいた。
実の親に売られて故郷の秩父から吉原に出てきた日より、いつか必ず訪れる「初見世」に、覚悟はしていたはずだった。
ところがいざ目の前に訪れた今、おすてはうつむいたまんま、ただ胸に抱え込んだ盆をさらにぎゅーっと抱きしめることしかできなかった。
——よりによって……与太さの前で云い渡されるって……
今世でかような因果になるとは、我が身は前世でどのような深い業を背負ったのかと、おすては遣りきれない思いでいっぱいになった。