大江戸ガーディアンズ
〜其の参〜
本日もまた、和佐が畳に手を付いて身を投げ出すかのごとき勢いで平伏する。
「兄上、後生にてござりまする。
どうか、わたくしの願いをお聞き入れくだされ」
畳に額がくっついてしまうほど、和佐の頭が下がる。
だがしかし、本日もまた兄・兵馬は許しはしなかった。
「何度も同じことを云わせるな。駄目なものは駄目だ」
「兄上は酷うごさりまするっ。
父上は、兄上のお許しが得られさえすれば好きにするが良い、と仰せになっていると云うに……」
がばりと面を上げた和佐は、無念極まれりと唇を噛んだ。
——あの親父……
厄介ごとは全部こっちに押し付けやがって……
それもこれも、父が我が妻・志鶴に瓜二つの和佐に、嫌われたくなくて強く出られないがためである。
しかも、今の和佐には我が腹を痛めて産んだ、千晶と太郎丸と云う「切り札」もある。
ゆえに、江戸じゅうの猫の手を借りたいほどの忙しさの中であっても、南町奉行所 年番方与力・松波 多聞はなんとか時を捻り出して、孫たちが待つ八丁堀の組屋敷へと帰ってきた。
きっと今頃、嬉々として孫たちと遊びに興じているに相違ない。
兵馬とて、宿直が続きようやく屋敷に戻れたと云うのに——帰ってくるなり和佐の「これ」である。
「起っきゃがれっ、戯け者っ、
おめぇみてぇな者を『囮』になぞ、使えるわきゃなかろうがっ」
武家言葉と町家言葉がごった煮になった怒鳴り声が響いた。