大江戸ガーディアンズ
そんな折、本田家からいきなり縁談が舞い込んできた。
本田の御家には息子は一人しかおらぬゆえ、もちろん「相手」は主税だ。
和佐にとって、まさに思いがけぬことであった。
神仏より今世だけでなく来世の分の僥倖もすべて与えられたかのようであった。
我が身にまったく覚えはないが、前世でかなりの功徳を積んだのかもしれぬ。
『——で、おめぇはどうする気なんでぇ』
たとえ互いに若衆髷の頃から切磋琢磨してきた朋輩の息子だとは云え、たった一人の娘を嫁にやりたくはないのであろう。
父・多聞は来世で祟られるほど数多の苦虫を噛み潰したかのごとき顔をしていた。
『本田に嫁げば、お千賀がいるぞ。
ありゃあ、一人息子の主税にべったりだかんな。
おめぇは、あの「姑」に仕える覚悟はあるか』
多聞の母の姪——つまり、従妹である。
その心根は子どもの頃よりじゅうぶん見知っていた。
『……はい』
父に問われて和佐が返した言葉は、それだけであった。
されども、父を見上げた両の眼は幾多もの星を集めたかのごとくきらきらと光り輝いていた。
父の隣では母・志鶴が穏やかにふっくらと微笑んでいた。
『縁談は他にも一杯来てんだがなぁ……
どうも主税の野郎はよ、おめぇのおっ母さんの「幼なじみ」に感じが似ていやがんのが癪に触んだよな……』
多聞はなにやら一人でぼやいてはいたが、すぐに奉行所の上役でもある仲人へ返事をしてくれた。
すると、あとはとんとん拍子で縁は結ばれた。
祝言を挙げて本田の御家に嫁した和佐は、若衆髷を解いて丸髷となった。
朝晩欠かさず行っていた木刀の素振りは「封印」した。
小袖に袴姿だったのも、袴は付けずその代わり打掛を羽織るようになった。
そして、一人息子しかもうけられなかった千賀を尻目に、瞬く間に二人の子を産んだ。
そのうちの一人である太郎丸は、本田家の次代を担う嫡男である。