大江戸ガーディアンズ
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


此度(こたび)の御役目では、吉原の(くるわ)なるものへ身を変装(やつ)して入り込まねばならぬのでござりましょう。
ならば……『女手』が入り用なのではありませぬか」

「おめぇ、なにが云いてぇんだ」

兵馬は胡乱(うろん)げに和佐を見た。


「吉原なる(ところ)は『(おんな)の園』と聞き及んでおりまする。
しからば、妓たちが控える見世の『奥』はおなご(・・・)でしか入れぬのではござらんか」

確かに、その身を変装(やつ)した上であろうとも、奉行所(おかみ)に仕える隠密廻り(おのこ)がいきなり遊女や女郎たちの(くつろ)ぐ部屋に立ち入るのは難しいであろう。

「わたくしは父上や兄上のお導きで、一刀(いっとう)流の御免状を皆伝しておりまする。
さすらば……わたくしの『腕』であらば『髪切り』なる者を(おび)き寄せる『囮』としてのみならず、『用心棒』としても立派に御役目を果たせると思いませぬか」

和佐は父親譲りの眼光鋭き目力で、兄をしかと見据えた。


おなごとして生まれた和佐であるが、常々「我も武家の御家に生を受けた身、いつの日か公方(将軍)様のために()()とも御役目を果たしてみとうござる」と思っていたのだ。

なにより、幼き頃より鍛えてきた我が剣術(やっとう)の腕が如何(いか)ほどなのか試してみたかった。

今こそ、千載一遇の機会である。


(たわ)け者めがッ」

兵馬は大音声(だいおんじょう)で妹を一喝した。

奉行所(われら)の御役目が、おまえごときの腕で務まるはずがなかろうぞ。自惚れるな」

< 141 / 316 >

この作品をシェア

pagetop