大江戸ガーディアンズ

「……旦那さま」

縁側の障子の向こうから声がした。妻の美鶴だ。

「何だ、用なら(はよ)う云え」

声を荒げたまま、兵馬が応じる。


「先ほどから、庭先で『御用聞き』が控えておりまするが……」

実は、御用聞き(手先)の与太が縁側の外まで出向いてきていた。

ところが、座敷から聞こえてくるあまりの剣幕に、なかなか声をかけられず困り果てていたのだ。

其処(そこ)へ、姑の志鶴に云われて兄妹の様子を伺いにやってきた美鶴が出会(でくわ)したのだった。


「なんだと」

と云う声と共に、障子がすぱーんと開いた。

「あっ、松波様、夜分恐れ入りやす」

与太がぺこりと頭を下げた。

兵馬は間髪入れずに訊いた。


「おい与太、囮になる町家の(もん)の『目星』は付いたのか」

< 142 / 316 >

この作品をシェア

pagetop