大江戸ガーディアンズ
「そ、そいつがその……」
庭先につっ立ったまんまの与太が云い澱む。
「なんでぇ、早う云いやがれっ」
和佐への怒りがまだ収まらぬ今、兵馬の火縄(導火線)は滅法界もなく短かった。
「まぁまぁ、旦那さま、かように声を荒げては、町家の者が怖がってなにも申せぬではござりませぬか」
美鶴が間に入って兵馬を取りなした。
「御用向きの話であろう。
いつまでもさような処におらず、此方に上がってくるがよい」
そして、与太を縁側へと促すと、おのれ自身は静かに座敷の中に入り義妹である和佐の隣にすっと座した。
与太は「へぇ、すまんこってす」と口の中でもごもご云いながら、坪下がりの雪駄を脱いで縁側に上がった。
鼻緒を下にずらして爪先を反らせた「坪下がりの雪駄」は、大工や鳶たちが好む鯔背な草履だ。
足指を鼻緒に深く入れずにちょいと突っかけて履くことから「つゝかけ」とも呼ぶ。
「……で、どうなったってのよ」
立ち上がっていた兵馬が再び畳に腰を下ろし、改めて尋ねる。
「へぇ、奉公してる見世の者を囮にっ云う松波様の仰せだったんで、こりゃあ見世の主人やお内儀に何も云わずに頰被りして事を進めるわけにゃいかねぇな、と思いやして。
そんで、最前から御用向きでちょいと馴染みのある久喜萬字屋へ行ってきやした」
板張りの床できちっと正座した与太は、ようやく気を落ち着けて話すことができた。
「あいにく見世の主人は留守でやしたが、お内儀の方にゃ会えたんで、早速仔細を話しやした。
したら、此度ちょうど初見世を迎える妓がいるから使ってもいい、ってぇ話になりやして……」
「そうか」
それまで機嫌を損ねて険しかった兵馬の顔が、ばっと明るくなった。
されども、打って変わって今度は与太にすーっと影が射す。
なぜなら、その『此度ちょうど初見世を迎える妓』とは——おすてだからだ。