大江戸ガーディアンズ
「ま……舞ひつるを囮に、だと……」
凛々しく整った兵馬の顔が、呆けて間の抜けた其れになった。
「へぇ、お内儀は『あの子だったら、しっかり『御役目』を果たしてくれるだろう』っ云ってんでさ。
そんでもって、そのことを同心の杉山様や伊作親分ではなく……何故か、与力の松波様に云っとくれって……」
与太はどうにも腑に落ちない面持ちで伝えた。
「されど、久喜萬字屋の舞ひつるは——行方知れずでござんしょう」
与太は首を傾いて尋ねるが、兵馬は押し黙ったままだ。
「松波様の仰せでおいらたちが舞ひつるを捜し回ってたとき、お内儀は『舞ひつるは、ちょいと具合を悪うしちまって、養生のためにしばらく余所へやってる』の一点張りでやしたが……」
——っ云うこった、やはり舞ひつるは……
与太たちは、舞ひつるが町家の旦那衆が色里の妓を落籍かせたのち、家人に知られぬようひっそりと囲う「妾宅」が立ち並ぶ黒塀の界隈に身を潜めていたことまでは突き止めていたのだが……
久喜萬字屋の手引きによって、何処か別の場処に移されたのであろう。
——お内儀の云い分は、本当だったっ云うこっだわな。
「……旦那さま」
思いを巡らせる与太を遮るがごとく、美鶴が口を開いた。
「あのことを申し上げても、よろしゅうございまするか」