大江戸ガーディアンズ

「ただ、父上は承知の上であるが母上は存ぜぬ」

ゆえに、家族の中では母の志鶴だけが美鶴()を「諸藩の子女」と信じていくことになろう。


「兄上っ」

和佐がまたいきなり畳に手を付いて、身を投げ出すかのごとき勢いで平伏した。

「後生でござりまする。
吉原での義姉上をお護りするがためにも、何卒(なにとぞ)わたくしも囮にしていただきとう存じまする」


「おまえはまだ、さように(たわ)けたことを申すか」

兵馬はほとほと呆れた目で妹を見た。

「ならば……母上に申し上げるまでにてござりまする」

和佐の決意は並々ならぬものであった。


美鶴は目を伏せたまま唇を噛んだ。

吉原で生まれ育ったことに「誇り」はあれども「恥」などありはせぬが……

やはり——「武家の女」の手本である姑には知られとうなかった。


「——相分(あいわ)かった」

とうとう根負けして、兵馬は云った。

「ただし……主税が『良い』と云うのであればだ。
その代わり、母上には申すでないぞ」

多聞()兵馬()にしたように、今度は主税()へ「丸投げ」となってしまうが……

二人の子を持つ和佐を囮になぞ、夫である主税が許すわけがなかろう。


「母上には決して申しませぬ。
兄上、ありがたきことにて存じまする」

ようやく「望み」が受け入れられたと思った和佐は、兄に向かって畳に額をくっつけるほど深々と頭を下げた。

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