大江戸ガーディアンズ
🏮 肆の巻「謀(はかりごと)」
〜其の壱〜
「——そりゃあ良うござんした。おまえさんもご苦労だったね」
久喜萬字屋のお内儀であるおつたはさように云って煙管から莨をひとくち呑み、吸った煙を肺の腑にしっかり満たすとふーっと口から吐き出した。
そして「してやったり」と、満面の笑みを浮かべる。
——さすが、あの辰吉親分の孫だけあるねぇ……
町家の岡っ引き風情が、同心ならともかく与力なんて「上つ方」に面通しできるだけでも考えられないと云うのに……
与太は、おつたが言伝たことをしっかりと果たしてこの久喜萬字屋に戻ってきた。
ところが——
上機嫌のお内儀とは裏腹に、与太は滅法界もなく苦りきった渋面だった。
「お内儀、此の見世で御武家の御新造さんを二人も預かるんでぃ。
おめぇさん、其れ相応の『覚悟』はできてんだろな。
……二人とも、天下の与力様の『恋女房』だぜ」