大江戸ガーディアンズ
「……そうだねぇ。
『舞ひつる』が戻ってくるってことは、また羽衣の御座敷に出そうかね」
かつて「舞ひつる」だった美鶴は「昼三」を務める羽衣の下、妹女郎として夜見世に出ていた。
「したら……おすても一緒に、羽衣に任せようかね。
そいでもって、も一人の御武家の奥方もさ、番頭新造のおしげに付けて『見習い』にすりゃあ都合が良いやね」
「呼出」のいない今の久喜萬字屋では最高位になる「昼三」が二人いて、そのうちの一人が舞ひつるの姉女郎であった羽衣だ。
「姉女郎」ともなると、我の仕事だけをすれば良いというわけにはいかぬ。
世話になっている見世への恩返しのためにも、初見世後に人気になりそうな「上玉」を「妹女郎」として側に置いて、一人前の遊女にせねばならぬ任も加わる。
しかも、年端の行かぬ女子たちに、遊女らしいしゃなりとした所作を叩き込むのは元より、唄に三味線に舞にと歌舞音曲の稽古をつけ、さらには身に纏う着物や簪、喰い扶持の面倒までもみてやらねばならぬ。
加えて「番頭新造」の分もある。
番頭新造とは、年季奉公の十年が明けても何処にも行く当てがなかったりして、廓に留まった女郎だ。
おのれ自身がもう客をとることはないが、その代わり世話になっている遊女のために日々の雑事を一手に引き受けるゆえ、「遣り手」とも云われる。
海千山千の番頭新造は、面倒な客相手でも遊女に代わってあしらうことなんか朝飯前なものだから、口さがない客からは腹立ち紛れに「遣り手婆ぁ」などと呼ばれていた。
さようなことから……たとえ昼三になって我が身の稼げる揚代が跳ね上がったとしても、出て行く金が半端なかった。
「……だけど、それじゃあまりにも羽衣の『荷』が重うなっちまって、あの子一人だけが割に合わないやねぇ……」
おつたが遠い目をして紫煙を燻らせる。
「そいつぁ、心配無用だぜ。
松波様がお見越しなすってさ、『青山緑町の御前様』に登楼ってくださるよう話をつけるってぇこった」
『青山緑町の御前様』とは、安芸国・広島新田藩の三代藩主、浅野 近江守である。
もともと羽衣の娼方(上客)であるため、此度の件では奉行所を通して援けを求めることと相成った。